牛伝染性リンパ腫(EBL)勉強会 JAホール


JAホールでの牛農家さん向け勉強会へ参加させていただきました。
イラストは以前にミニ勉強会をおこなったときにレポート的に作成したものです。
掲載するタイミングを完全に逸してしまっていたので、今回の勉強会を機会にして載せます。

今回の勉強会は、宮崎大学准教授の目堅先生による基調講演とあわせて、天草や宮崎で実際にEBL対策に取り組んできた方々を招待してフォーラム形式でお話を聞くことができました。

会場からの質問は少なめでしたが(質問するのも勇気がいりますよね)、全頭検査しているけれど、どこに検査依頼するのがベターなのか?という質問など、農家のみなさんの実際的な悩みを聞ける機会にもなって良かったです。

検査代がかかることに加えて、陽性が分かった場合にセリに出しづらいなど、短期的には良いことが少ないこともあり、対策が進まない現状があります。
しかし感染症なので、対策せずにいるとまん延していってしまいます。
EBLの感染が進行すると、抵抗力が弱まるというお話もありました。死亡率があがることも含めて、全体的な質の低下を招きかねません。
また、他の地域の対策が進むことで、対策に取り組まないできた地域の仔牛の価値が下がっていくことにもなりかねないのも懸念されるところです。

検査体制をしっかり作っていくこととあわせて、陽性牛が出たときに感染が広がらないための対策の支援など、基本的なことから取り組む必要がありそうです。
フォーラムでは、各地「EBL対策の協議会がある」という報告もあって、まず話し合いの場を作っていくことが第一歩かもしれませんね。

農家も個人事業主なのでそれぞれががんばること、と言われることもありますが、いろいろな地域の話を聞いていると、産業を育てるという観点で、関係者が協力体制を作っている地域は強いと感じます。

フォーラムでの質問と回答を少しまとめたいと思います。
参考になれば。

【会場からの質問】

――導入牛の検査はいつ頃するのが良いでしょうか。

宮崎大学 目堅准教授(以下、回答者同じ)
理想としては到着時すぐです。ですが、難しい場合もあるので、半年一回の検査フローにのせるなどでも良いと思います。
ものすごいスピードでうつるウイルスではないので、あまり神経質になる必要はありません。

――妊娠・出産への影響はありますか。

受胎率の低さは、データとしてはまだ出ていない、統計が採りにくいこともあると思います

――えさやりで注意したほうが良い点は?

えさやりは気にしないでいいです。 衛生対策をやっていれば大丈夫です。

フォーラムでの質疑応答(*発言は読みやすいよう省略・言い替え等しています)

【質問①対策の必要性】

――EBLの発症は遅く、発症率も低いですが、対策する必要はあると考えますか?

目堅先生(宮崎大学
対策したほうが収益はあがるとは言えます。恩師の堀氏は、獣医師として「病気で死んでいく牛がいるのに対策しないわけにはいかない」と言いましたが、獣医師としては対策すべきというところを目指します。

熊本県畜産農協
 農家さんの判断が一番です。一方で、養成牛が多い農家は「無理」となってしまいやすい。対策はしたほうがいいですが、労力はかかります。するなら全力で、ただし続けられる範囲で、長丁場で考えて少しずつやるのが良いと思います。

天草地域EBL対策協議会
 半年9頭発症し、淘汰しました。このままでは農場自体がなくなると思った。数か月、獣医、家畜保健所と相談して、支えると言葉をもらいました。5年かかってゼロを達成しています。言えるのは、「やればできる、やらなければできない」ということです。

宮城県JA尾鈴
 宮崎では口蹄疫で多くの牛が殺処分された経験があり、復興方針で「特定疾病フリー」の産地づくりに取り組むことと定めています。
 陽性牛はJA関連の肥育施設に買っていただきました。何のために検査をするのかという意見もありましたが、検査をした子牛を市場に出すと、県外のお客さんがフリー(陰性牛)ということで高くで買っていった。採血、検査をして、それなりに苦労しましたが、付加価値がつきました。現在は、全市場検査をして、売買時に札をつけています。

熊本県天草家畜保健所
 清浄化については、長い目で、経済面を考えると一番良いです。取組みをはじめるにあたって状況は地域で違うと思うので、むつかしいが、続けられないというところも、続けるというところもあります。そのあたりを考えながら、それぞれの農家にあったやりかたで考えていくのが良いでしょう。

【質問②体制づくり】

――宮古では地域としてのEBL対策の取組みはさほどありません。希望農家が個別に取り組むような状況です。また、獣医に勧められて検査しても、難儀に感じてしまって対策に繋がらない状況でもあります。対策に取り組む農家は多くない。それぞれの地域では対策にあたって、どのような機関が、どう役割を担いましたか。

熊本県畜産農協
 天草地域では地域、行政・・・市・町、共済組合、農協などで協議会をつくりました。日取りを決めて「検査してください」と声かけをしました。

――検査する体制があったということですね。

熊本県畜産農協
 そうです。獣医師さんの協力も大事です。農協が農家さんに声かけくれたことが良かったと思います。

天草地域EBL対策協議会
 毎月検査をしました。目堅先生が講演で言われたように、陽性牛は二割出る時期が続いた。対策を進める中で行き詰まりを感じていたときに、廃業された方の牛舎があったので、借りることができて、対策を進めることができました。

宮城県JA尾鈴
 勉強会を何度か実施しました。そのあとで各個人農場に入り込んで対策をしました。
 隔離牛舎を借りて陽性牛を集めて、産ませた子牛を引き取るということをしました。長くいた牛で3年くらい。牛舎の持ち主に、雇用費、牛舎賃借代などけっこう大きく支払っています。人は雇用しないといけないですし、牛小屋を貸してくれた農家など、けっこうな金額を支払っています。国の補助など利用して、組合、宮崎中央会、県などから1400万の補助をもらいました。運用費は互助会をつくって維持しています。(資料より:雇用費20万円/月、牛舎賃借代5万円/月)
 べニア板をはって、接触させない。ウイルス量をはかって多いものは淘汰しました。現在は(陽性率は)改善しています。接触させないことで改善を見出したと思います。

――協議会は宮崎にもありますか?

宮城県JA尾鈴
 あります。

――協議会があったほうがやりやすいかもしれないですね。

【質問③補償について】

――宮古では売買された牛に、その後発症が認められた場合は損害を補償しています。それぞれの地域はいかがでしょうか。

熊本県畜産農協
 天草では、購買者が勝った牛が陽性となったときに補償をおこなっていましたが、最近制度が変わりました。現在はセリ場で農家、購買者、負担金をいただき、その中で補償をするという体制です。
 セリ前に希望者が検査をして陽性が判明した牛も、陽性牛の段階では、公表せずに市場に出しています。発症して廃棄の場合、積み立てた中から全額、見舞金として支払っています。農家負担なしで行えています。

宮城県JA尾鈴
 検査した子牛に陽性がでたら、市場には出させないことになっています。雌の平均価格をもって、8割の金額をあっせんし、肥育農家に販売しています。上限10万円の補助金をつけて、見舞金として農家に入金しています。
 他の地域については、検査する場合にはメス牛全頭を検査してもらうことになっていて、子牛の品評会も、陰性が証明されたものしかでてきません。公表をおこないながらセリで販売しています。

【質問④検査結果の公表について】
――各地で陰性の公表をおこなっていますが、公表にいたるまでの流れをざっくり話してもらえますか

熊本県畜産農協
 平成30年から品評会に出す子牛は、陰性牛に限定しています。その一年後にセリで陰性牛の公表をはじめました。
 陰性と公表していたのに、陽性が出てしまうケースもあり、清浄農場を教えてほしいという要望や、陽性がいない農家から、その旨公表してほしいとの要望がありましたが、陽性牛がいる農家からは「差別につながる」と反発があり、そこにはいきついていません。

――公表する・しないのハードルは高いと思われますが、反発はなかったのですか。

熊本県畜産農協
 陰性牛がある程度増えていったので、公表に踏み切りました。もともと島で自家保留牛では陰性農家が多かったのと、がんばって陰性にされた農家さんからは、「対策したのだから見返りがほしい」という声が大きくなり、公表して高く買ってほしいと要望が強まりました。ある程度の段階に達することが必要だったと思います。

――対策で陽性率が下がってきたタイミングだったということですか? 費用負担はどうされているんでしょうか。

熊本県畜産農協
 国の補助で、検査料2分の1、獣医師の技術料半分あり、市の方からも、半分の半分、補助しようという動きも出て、取り組みやすくなっていると思います。

――農家は4分の1ですか?

熊本県畜産農協
 そうです

宮城県JA尾鈴
 (口蹄疫の対策後に牛の)再導入から始まって、現状は親牛をすべて検査しています。10年近くたちます。年一回、全頭検査をおこない、セリ上場時の検査もやっています。今は陽性牛もほとんど数が減ってきているため、もともとの親牛をやっていけばいいんじゃないかという考え方で、清浄農場も分かっているので、二年に一遍にしようという話になっています。
 外部導入牛は、必ず検査をするように周知しています。現状は子牛のセリの時には、検査済みの証明をつけていて、かつ、清浄確認農場の黄色い札をつけています。もし陽性牛が出た場合は、半年に一遍検査をおこないます。陰性証明が取れれば、再度札をつけていきます。親牛にもし陽性が出た場合は、まず家保に送って、それからウイルス量が知りたいというときは宮崎大学のほうで調べてもらう段取りです。

――農家が検査依頼して、だまっていたら分からないのではないですか?

宮城県JA尾鈴
 すべてうちがバックアップしているので、すべての情報をもっています。公表はしないと条件です。

――農家負担はどのくらいでしょうか。

宮城県JA尾鈴
 農家さんの負担は500円、JA500円、いまは一頭1000円です。そこでまかなえないものは、積み立てからやっています。子牛の場合はとっていません。

――淘汰の奨励金はいかがでしょうか。

熊本県畜産農協
 高齢の陽性牛から淘汰しています。超高リスクであっても血統が良い、若いなどの場合、農家さんは淘汰したがらない。代替牛は補助金ではまかなえません。淘汰のための補助はほとんど活用されていないと思います。

宮城県JA尾鈴
 互助会で取り決めていて、親牛が陽性なら、導入したところへ遡り、導入金額8割を補填してもらっています。財源がなくなるといけないので、互助会からも10万円支払っています。

――互助会の参加割合は?

 9割以上は参加されています。
 陽性牛の淘汰について、資金限りがあるので、やれても5頭とかその程度です。採血の補助に変わったと聞いています。

――セリ出荷前検査は、どれくらい前に検査するんですか。

熊本県畜産農協
 セリから一か月前以内ですね。宮崎大学におくってリアルタイムPCRでやります。(数が多くないため)

宮城県JA尾鈴
 エライザ抗体で調べます。経済連で検査して、疑義が出た場合は、宮崎大学に送ってデジタルPCRでやります。(数が多いため)