市民勉強会「水道水中複数農薬成分、微量なら安全か?」(宮古島地下水研究会)

昨年6月に、宮古島地下水研究会「宮古島の水道水と地下水から複数の化学農薬成分を検出した」との調査報告を受けて、水道部、環境衛生局ともに追加調査を行うこととなりました。

宮古島市水道部は8月に行った測定結果を12月にウェブサイト上で公表しています。
4種類の農薬成分の検出が確認されましたが、水道部はいずれも「国の基準値の範囲内」として安全であると発表しています。

今回の地下水研究会主催の勉強会は、市の測定結果や「基準値内」としたコメントへの応答となる内容でした。コロナに配慮した少人数規模になりましたが、お話を伺ってきました。
長くなりそうですが、問題提起や今後の課題の提示として、記載したいと思います。

宮古島市水道部 測定結果「検出はされたが基準値内」

浄水場2か所、水源地4カ所で、14項目を測定した結果、4項目検出が認められました。
特に数値が目立ったのが、加治道水源のクロラントラニリプロール(商品名:フェルテラ )です。


水道部も回答しているように、すべて基準値内です。
しかし、ネオニコチノイド系農薬は欧州で規制が厳しくなる一方で、日本は規制が緩やかと指摘もされています。
EUに限定して見ても、使用制限から農薬登録を失効していたり、未承認の農薬もあります。

水道部調査結果:目標値等との比較(単位:mg/L)

成分名(商品名) 平良池間 城辺保良 白川田
水源
東添道
水源
ニャーツ
水源
加治道
水源
目標値 EU
クロチアニジン
( ダントツ)
0.000035 0.000037 0.000045 0.000017 0.000046 0.000034 0.25 0.01
ジノテフラン
(スタークル)
0.000004 0.000037 0.000004 . 0.000007 0.000004 0.58 未承認
クロラントラニリプロール
(フェルテラ)
. . 0.000069 0.000051 0.000065 0.00018 0.69 0.03
フィプロニル(プリンスベイト) . . . 0.000004 0.000006 0.000002 0.0005 農薬登録失効

一日摂取許容量(ADI)とは、人が毎日食べ続けても、健康に悪影響がでないと考えられる量のことを言います。
しかし、残留農薬基準における摂取可能な一日あたりの農薬の限度量(ADI)は、体重50kgあたりでの換算値となっており*1、幼児や胎児ではより影響を考慮しなければなりません。

複合曝露の影響も心配されます。
ひとつの農薬の項目では基準値内でも、複数の農薬成分を摂取すると、合わさって知らずと影響を大きく受ける可能性があります。

表は地下水研究会の調査で協力した市民(サンプル数10人)から検出された農薬成分の数値です。個人差がありますが、特に数値の高い方は、農薬成分の検出が複合的に積み重なっているのが分かります。

また、宮古島の地層は地下水をためる天然のダムでもあり、それだけに浄化が難しく、近年の森林率低下と地下水をせき止める地下ダム構造から、かつてに比べ浄化する力が弱まっているという指摘もありました。

こうした中で、地下水を水資源として頼る離島として、市政が向いていくべき方向はやはり、いかに農薬使用量を減らしていけるかではないでしょうか。

宮古島市の農業政策と水環境

宮古島における農薬の使用量は県内でも高く、農薬販売量は県全体の24%を占め(H25)、ネオニコチノイド系農薬に限っても県年間販売量の13%を占めるそうです。

いくつかの研究で、有機リン系農薬の曝露によるパーキンソン病のリスク上昇が関連づけられ、フランスでは農業者の職業病と認められています。

宮古島での有機リン酸系農薬の使用は減少していますが、代わって増えているのがネオニコチノイド系農薬です。

宮古島で他の地域より化学農薬が進んで使用される背景には、県と進めてきた「さとうきび増産プロジェクト」での、市による農薬の購入補助があるようです。

毎年、同じ農薬を予防も含めて過剰に撒くことで、耐性をもった害虫が出てくるおそれもあって、必要以上の量を連続使用することは、長い目で見るとプラスにならないといいます。


宮古島地地下水研究会 宮古島市長あて提言【農業及び林業対策の評価と今後の展望】を参考にしながら独自に作成しています。夏植えと春植え・株出しで農薬量は変わらないそうです。フィプロニルのようなEUで認可のない化学農薬の散布は避け、化学肥料から有機肥料への転換へ踏み出していけると良いですね。
【PDF】「令和元年・2年度エコアイランド宮古島推進計画」及び「エコアイランド宮古島宣言 2.0 ゴール(指標)の設定について」における地下水保全に係る課題について

宮古島市は、価格高騰に対する補助として農薬・肥料の購入補助を行っていますが、同時に12月議会においては「農業生産力向上及び農家所得アップ支援事業」として堆肥の購入補助を始めました。
化学農薬・肥料の使用から有機農法へ変えていく後押しが、今後はより必要とされていくものと思います。

北大東島では、有機堆肥を使った地力増進に取り組み、生産量で前年比29.6%増、単収が28.2%増と、大幅な増産を達成しています。
ハーベスター刈入れが多く、キビの葉がらの活用機会が少ないことなど宮古島と環境は似ていますが、島内で畜産堆肥をまかなうことができず、九州の堆肥業者から輸送してもらうことで調達を実現しました。
堆肥を島内でまかなえる宮古島市では、有機堆肥利用をもとに、地力増進と生産量アップに進めていけるのではないでしょうか。

これまでのさとうきび政策について、①化学農薬の連続使用で害虫の耐性が強まっていないか? ②地力は落ちていないか(土壌診断)、など、エビデンスにもとづく振り返りと、今後の展望の構築を行う必要がありそうです。

地下水への化学農薬の影響軽減をも念頭に置き、有機堆肥による地力アップと増産ができるよう方針と計画を作り上げていくことが、まずひとつできることではないかと思います。

地下水の関係当事者による共同運営で課題や目標の共有を

水を守るために、まず何をすればいいのか? という質問に、「ステークホルダーで協議会を作り、課題解決にあたる」という友利先生のお答えがありました。

かつては水道局で一元・包括的管理がされていた宮古島の地下水ですが、現在は細かに担当が分かれています。
地下水モニタリング調査もそれぞれに行われていて、測定結果の共有も必ずしもできていないもよう。

部署を一つにするのは難しいかもしれませんが、関係者協議会をもって情報と課題の共有をし、協働でどのようにすれば宮古島の水を守っていけるのか、きちんと話し合う場や仕組みがあることが大切だと感じました。

宮古島における疫学調査の必要性と、生態系保護のための化学農薬使用量の低減

化学農薬の健康に与える影響は、まだまだ不明な部分が多いようです。TBSの報道特集で取り上げられた研究では、無毒性量でもマウスに自閉症的傾向が現れたとしています。

国の基準では、そのようなことは前提にされていないので、基準値と実際の影響とは乖離がある可能性があります。
しかし根拠がはっきりせず公的機関での言及もない状況では、たとえば行政機関が、その前提で対処していくということは少々難しいかもしれません。

アメリカのPFOAにおける健康被害は、7万人規模の疫学調査を経て明らかにされてきました。
今回、勉強会で講話された友利先生も、宮古島での疫学調査が必要とおっしゃっていましたが、お話を聞く中で、そのことは強く感じました。
ではどうやって疫学調査をするのか? サンプル数はどれだけあれば良いのか。また、どのような調査をすれば、体内の農薬成分と病気の因果関係の有無が判断されるのか。

また、佐渡ではトキの保護のためにJA主導で、減農薬栽培のブランド米を作りました。
規制・制限という枠組みではなく、有機農法や減農薬にインセンティブが働くような仕組みがあるといいですね。

昨年6月の地下水研究会の発表で養殖エビに農薬が影響しているかもしれないという話がありました。
このことについて研究会で追加の調査が行われ、底砂から農薬の検出があったということでした。
地下水が含む農薬成分が流れ込んだとして、エビにどれだけ影響したかの判定はまた次の課題ですが、佐渡のトキのケースのように生態系への思わぬ影響もあり得るので、島の小さな生き物たちとその環境を守るためにも対策を考えていきたいところです。

www.env.go.jp

*1:例) 水質汚濁に係る農薬登録保留基準の設定に関する資料 フィプロニル より「登録保留基準値は、体重を 53.3kg、飲用水を 1 日 2L、有効数字は 2 桁(ADI の有効数字桁数)とし、3 桁目を切り捨てて算出した」