沖縄の「自治は神話」か?沖縄と自治を知るおすすめ動画や書籍

2023年は沖縄にとって大きな動きがいくつもありました。
年末からさかのぼれば、大きなものは、やはり辺野古新基地建設にかかる国の強制代執行でしょうか。

本来は公権力に対抗する仕組みとしてある「行政不服審査法」を、国が利用して、地方自治に工事を強制することができることを、司法が認めてしまった*1として、これでは地方自治が成り立たないと報道等で大きく取り扱われました。

また今年は若い世代の政治・平和運動への参加など新しい動きの出た年でもありました。

この動きが育ち、広がっていくためには、自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態が作られることが大切です。*2

それとあわせて、私たちはもっと、沖縄がなぜ「戦争につながる一切のものを否定する」のか、知っていく必要があると思うのです。

平和を願うに留まらず、沖縄が抱えている複雑さとして、自治権の問題があります。

強制収用される土地に抗う島ぐるみ闘争、沖縄にかつて核ミサイルが置かれ、「緊急時には再び持ち込める」とした密約が今なお残っていること。
瀬長亀次郎が那覇市長になった時に、あの手この手で失脚させる動きがあったこと。

私たちはその歴史の延長に生きていて、その歴史の上に陸自配備が進められていること。

変わらずそこにあるのは、沖縄に住む人々の意思決定権が抑圧され、懐柔され、蔑ろにされてきた事実であると気づかされます。

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今年は、県内各所で「津嘉山正種ひとり語り」が上演されて、宮古島市でも観劇の機会がありました。

私が観た『命口説』も良かったですが、ひとつの家族にしても複雑な心理を描く重たいテーマの一方、『瀬長亀次郎物語』は、主人公が孫娘に、沖縄を本土復帰に導いた瀬長亀次郎の半生を語る、全体的に希望を感じさせるものとなっています。

終盤にアイロニカルな仕掛けもありますが、孫娘の推し活に共感しながら、亀次郎の話に入っていく導入など可笑しくて、すぐに引き込まれます。

ラジオのように家事の合間に聞けるし、こういう時代があったこと、そこから沖縄はまだ脱し切れていないのではないかという気づきなど、これからの沖縄を担う世代にとくに聞いてほしいと思いました。

また、移住して沖縄に住んでいる方、離島に住んでいて、米軍統治下の圧政について良く知らないという人にも、ふれておいてほしい歴史です。

もちろん「当然知ってる」「今さら」という人もいるかもしれません。

私自身の中で引っ掛かりを感じたのは、沖縄の若い世代、移住者、また離島の人たちからオール沖縄を良く思わない発言を聞く機会が複数あったことです。

私自身もオール沖縄に対する離島の住民として心の距離や、変遷に対する指摘への憂慮や懸念、さまざまに思うところはありますが、あの時、保守も革新も超えて沖縄の自治権にこだわって立ち上がった気持ちには、普遍的なものがあると思うのです。

そこが簡単に否定されていくのは、沖縄の自治権をめぐる歴史の認識が、沖縄の次の世代を担う人たちの間で共有されてないためではないかと感じたのでした。

2013年、沖縄県内の全41市町村の首長らがオスプレイ訓練に反対して銀座をデモ行進したことがありました。呼びかけの中心となったのは当時那覇市長の翁長雄志さんでした。

当時私は東京にいて、ニュースは後から知りましたが、加速していく沖縄に対する冷淡な内地の世論を複雑な思いで眺めていました。

声をあげればあげるほど、世間は頑なになり、目をそむけるか、冷たい言葉を投げつけるようになります。
けれどもその後、2019年の辺野古埋め立てを問う県民投票で大きな結果を残してのち、内地での世論も少しずつ変わっていきました。

その山を、今ふたたび越えなければなりません。

運動が揺るがないということは、なぜ私たちが何度つぶされても立ち上がらなければならないのか、その理由を知ることから始まるように思います。

瀬長亀次郎についてはドキュメンタリー映画もあるので、当時の映像など重ねて追う映画でもぜひ見てほしいです。

『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(2017)
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アマゾンプライムで配信しています
Amazon.co.jp: 米軍が最も恐れた男~その名は、カメジロー~を観る | Prime Video

サンマデモクラシーや、密貿易の横行する時代に活躍した女性を取材したルポルタージュ「ナツコ 沖縄密貿易の女王」も、戦後の沖縄を知る資料としておすすめです。

『サンマデモクラシー』 (2021)
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配信はありません。本で読むしかないかも。

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沖縄と核の歴史は、5月県民大会でのパネル展示で改めて知って、資料など見ながら直接説明を聞くと、これまでの認識がいかにうっすらとしたものだったか気づかされました。

NHKスペシャルの放送も大きな話題となりましたが、長周新聞が当時の放送をまとめています。

*1:辺野古新基地建設にかかる国の強制代執行:
軟弱地盤や当初見込みをはるかに超える建設費などを理由として県が不承認を出したことについて、沖縄防衛局が「行政不服審査法」という制度を利用して不服申し立てを行います。
しかし「行政不服審査法」は、行政に対し個人が申し立てることのできる権利です。国の機関である沖縄防衛局にこれができるとなると、国が地方自治に対し、いかなる工事も執行することができてしまいます。
そこに「工事が妥当か」「地方自治は理解し合意しているか」などの視点はなく、単に手続きの問題として進められていってしまった経緯があります。

*2:自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態が作られること:
この考え方は「心理的安全性」といい、私が民間で働いていた時に、チームづくりで最も大切なこととして良く知られた考え方でした。また私自身、地域づくりや民主主義においてもっとも大切な考え方だと思っています。いつか時間をとって書きたいと思います。