池間島:海岸線の保全を考える

島に観光客が戻ってきたのと同時に、オーバーツーリズムに対する懸念の声も頻繁に聞くようになりました。

宮古バブルと謳われた4年前、土地の価格や家賃が高騰し、島民が置き去りにされた経済バブルにうんざりする気持ちは、島の誰しも少なからず持っているのではないでしょうか。

少し前に、池間島の海岸線が大変なことになっているよと聞いていたので、週末に島を訪ねてみました。

それまで池間島は、開発の波の届かない、地域の人たちが大切に大切に暮らす小さな島と思っていたのですが、ここにきて問題が立て続けに起こっているようです。

沖縄県海浜を自由に使用するための条例」は遵守されているか?

沖縄県海浜を自由に使用するための条例」は、リゾートホテル等がビーチへのアクセス路を囲ってしまい、プライベートビーチ化するなどの問題が起こっていたため、議員立法で作られました。

海浜利用自由の原則)
第3条 海浜は、万人がその恵みを享受しうる共有の財産であり、何人も公共の福祉に反しない限り、自由に海浜に立ち入り、これを利用することができる。
 
(事業者等の責務)
第6条 海浜及びその周辺地域において事業を営む者及び土地を所有する者(以下「事業者等」という。)は、公衆の海浜利用の自由を尊重し、公衆が海浜へ自由に立ち入ることができるよう配慮するとともに、県及び市町村が実施する海浜利用に関する施策に協力しなければならない。
海浜を自由に使用するための条例

第2条 条例第6条に規定する事業者等が配慮すべき事項は、次の各号に掲げるとおりとする。
(1) 公衆が海浜へ自由に立ち入ることができるよう適切な進入方法を確保すること。
(2) 公衆の海浜利用又は海浜への立入りの対価として料金を徴収しないこと。
海浜を自由に使用するための条例施行規則

オープンな砂浜にするとビーチで商売を始める業者が出てくるなど、新たな問題はありますが、周辺で事業をいとなむ業者がビーチへのアクセスを完全に遮断するというのは、地域に住んでいる方々からは納得できないことでしょう。

駐車場を設置して料金を請求するというのは、いささかグレーゾーンのように思いますが、少なくとも徒歩でアクセスすることは妨げられるものではありません。

複数個所の相談がありましたが、アクセス方法が明確でない箇所については、県にも把握をしているか、また対応は考えているかなど確認したいと思います。

防潮林を切り拓いたため周辺環境へ大きな影響を与えた例

池間島灯台に向かう一周道路沿いに、イキヅ―ビーチという小さな砂浜があります。

海岸沿いの土地の賃貸のされやすさを考えて、防潮林の役目を果たしていたギンネムなどの緑地帯を切り拓いたため、地元自治会からは懸念の声があがっていたといいます。

google map の衛星写真*1では、砂浜から県道にかけての緑地帯が一部整地されているのが確認できます。

同じくgoogle map ストリートビュー(撮影日 2014年3月)では、雑木林になっているのが分かります。

県道から砂浜まで緑地帯を切り拓いて、しばらく後にやってきたのが台風6号です。
悪いことに宮古那覇海峡を通過した台風6号は、宮古島の西北の沖に二日間停滞しています。
進行方向を北に変えて宮古島を離れるまでに、西側海岸線は大きな影響を受けたはずです。

ちょうど台風の影響を大きく受ける場所に浜が位置していたこともあり、台風後は辺りの地形が変わるほど大きな影響を受けていました。

海からの風が砂を巻き上げ、木などの漂流物と一緒に陸側にうち上げられています。

また砂をせき止めるとしていたトンブロックも、陸域が波に侵食され削られたことから、浜のほうへと崩れています。

県道(一周道路)へも砂の飛散が認められ、その先のキビ畑も塩害が起こっているという話でした。

県道の歩道側にかなりの砂が積もっているのが分かると思います。
また防潮林を伐採したために、台風時の潮が吹き付け、この一帯だけ街路樹が枯れています。

今後、急がれるのは、この近辺の現状回復ということになりますが、伐採した樹木が育つには年数が必要です。それまでに新たな影響が引き起こされないか、心配もあります。

私有地でのことではありますが、県道や周辺環境へ大きな影響を与えているので、行政も我関せずでいてはならないだろうと思っています。
いくつか問題が絡んでいますが、行政側で可能な対応など、週明け以降で調べてみたいと思います。

これからのこと

池間島で起こっているいくつかの事例は、共通して海岸線の土地をめぐる問題です。

日本の海岸線は国有地であることが多く安易に開発できない一方で、沖縄県は戦後米軍統治下にあって、日本の法律の下になかったこともあり、海岸付近まで個人の土地となっているケースが多いのだと聞いたことがあります。

崖下や、崖の上、また海岸線近辺など、島の人なら通常避ける環境に「風光明媚」としてホテルが次々建っている状況に、危機感を覚えています。

例えば、宮古島津波ハザードマップを見てみると、島民の生活圏はほとんど危険区域を避けてつくられていることが分かります。
一方で、宮古島に新築されるホテルのほとんどが、島民が避けて開発してこなかった土地に建てられ、その多くはハザードマップの危険区域にあるのです。

津波浸水想定図 宮古・八重山諸島 沿岸域 【全体図 】

さらに崖の近辺に建てられるホテルは、以前からがけ崩れが指摘されている場所に立地していることも多く、地震など災害時に大きな問題となりかねないと心配しています。

本来、海岸線は島の環境保全と安全性の観点から、開発は一定抑制されるべきでないかと考えています。

たとえば、海岸法という法律があります。

(海岸保全基本計画)
第二条の三 都道府県知事は、海岸保全基本方針に基づき、政令で定めるところにより、海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本計画(以下「海岸保全基本計画」という。)を定めなければならない。
 
(海岸保全区域の指定)
第三条 3 前二項の規定による指定は、この法律の目的を達成するため必要な最小限度の区域に限つてするものとし、陸地においては満潮時(指定の日の属する年の春分の日における満潮時をいう。)の水際線から、水面においては干潮時(指定の日の属する年の春分の日における干潮時をいう。)の水際線からそれぞれ五十メートルをこえてしてはならない。ただし、地形、地質、潮位、潮流等の状況により必要やむを得ないと認められるときは、それぞれ五十メートルをこえて指定することができる。
昭和三十一年法律第百一号 海岸法

沖縄県では、沖縄本島以外は「琉球諸島」として保全計画を立てているようです。
計画を見ると、池間島の周囲は黄色の線で囲われ、「海岸環境を積極的に保全する区域」とされています。

保安林は海岸保全区域に指定できないようなので、黄色の線のない区間があるのは、保安林となっているためかもしれません。

琉球諸島沿岸海岸保全基本計画/沖縄県

今回の場所は「満潮の水際50メートル」の保護区域になっている可能性があります。
しかし今回の防潮林の伐採と、それによる台風被害を予防することができませんでした。

では沖縄県宮古島市は海岸保全基本計画において、どのような保全を行ってきたのか。
詳細を確認する必要がありそうです。

また、崖に近接して建築物を建ててはならないという条例もあるようです。
全国的な条例で、沖縄県建築基準法施行条例にその項目がありました。

(崖に近接する建築物) 第5条
建築物を高さ2メートルを超える崖に接し、又は近接して建築しようとする場合は、崖の上にあっては崖の下端から、崖の下にあっては崖の上端から、その建築物との間に、その崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない。
建築基準法施行条例の解説

以前市に聞いたら、海岸線は県の担当だと言っていました。
そんなことを市民が聞いても「でも、宮古島市のことですよね」となります。
せめて窓口機関として情報収集や県への連携などできないものでしょうか。

宮古島に長らく解決せずにある問題は、県との連携がうまくいっていない箇所が多いように思います。
離島ゆえの難しさでしょうか。

戦後の特有な事情で海岸線まで個人有地があり、現在になって県外企業や事業者によって開発が進む状況となっています。
今一度、宮古島市として「海岸線を守る」取組みが必要なように思います。
 
調べること
✓ 「海浜を自由に使用するための条例」の遵守について
✓ 砂浜から県道におよぶ防潮林伐採を由来とした台風被害とその対応について
沖縄県の海岸保全基本計画の現状と取り組みについて
✓ 崖に近接する建築物について

*1:地図上のテキスト削除のため一部編集しています