火薬庫における火薬保管量および事故や有事の際のシミュレーションをもとめることに妥当性はあるか?

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火薬庫に貯蔵する火薬量について、時折「防衛機密なのだから言えるわけがない」という意見を目にすることがあります。

まず、火薬類取締法という法律があり、火薬庫はこの法律に則って運用されるものです。 どれだけの火薬量を保管するかについて、近隣建物の①保安距離、②保安種別によってその上限が決められます。

宮古島の場合、宮古島駐屯地にある火薬庫では、①保安距離:150m、②保安種別:第三種保安物件となり、おける火薬量は上限7トンとなります。 保良地区の火薬庫は①保安距離:250m、②保安種別:第二種保安物件となり、おける火薬量は上限6トンです。

いくら防衛機密だといっても、火薬類取締法をよめば逆算して、どのくらいの火薬量がおけるのかは推測が可能です。

上記情報は、防衛省が当初に断片的に回答していた数値であり、また経済産業省からの回答のものもあります。 現在、防衛省は上記の数値を「公式なものではない」と後から見解を変えましたが、そうとは言っても、保安距離250mが、240mになったり、260m になったところで、おける火薬量はそうそう変わるものではありません。

ではなぜ防衛省はこの数値を隠すのでしょう? なぜ地元住民はこの数値を出すようにもとめるのでしょう。

初め私は、近隣住民の一人として、火薬貯蔵量にこだわることは意味のないことだと考えていました。 防衛省火薬類取締法を遵守すると言っているし、そうである以上、嘘をついてまで法律範囲以上の火薬を置くことはないだろうと思ったからです。

しかし問題をつめていくと、懸念に思われる点が出てきました。

宮古島保良の火薬庫は、三棟建てることが分かっています。 同じ例が千葉県習志野市習志野基地にあります。 ここはもともと一つだった火薬庫を増やして、火薬庫三棟となりました。それにともない、貯蔵する火薬量が、10トン、11トン、0.5トンと増えたのです。

しかし合計して21.5トンの貯蔵量は、近隣にある保育施設(第一種保安物件)に対して、その上限量を超えてしまっています。 これが習志野市議会で取り上げられました。防衛省は、火薬庫は一棟ごとに保安距離を測るものだから、21.5トンでも問題ないという回答でした。

ですが、火薬類取締法をよくよく読んでみても、同一敷地内に火薬庫を建てるケースを想定して規定をもうけている項目はありません。 火薬類取締法は、同一敷地内に複数火薬庫を建てるケースを想定してつくられていないのではないか。 そもそも、この考え方でいくと、同一敷地内におけるだけ火薬庫を建てれば、5倍でも10倍でも、上限量を引き上げることができます。

私もこの点、直接、経済産業省にうかがったことがあります。 当時私の質問が下手だったのでうまく引き出すことができませんでしたが、別の方が同様の質問をしたおりには、10棟の火薬庫をつくれば10倍量おけることについて、「そういうことになります」とお答えされたといいます。

ところが、この火薬庫の件、超党派国会議員でおこなう省庁ヒアリングの際には「全体庫で測る」と答えられているそうです。

これに関して、先日おこなわれた防衛局による保良訓練場説明会で、あらためて質問しました。 防衛局の回答は「火薬庫についてはすべてお答えできない」でした。 経済産業省や国会議員に対する防衛省からの回答はあるのに、なぜ近隣住民への説明では「お答えできない」のでしょうか......

防衛局の説明パターンに「(火薬類取締法について)経済産業省との間で問題ないことを確認しながらやっていく」というものがあります。 けれど、全体庫で測るのか、個別庫で測るのかについて、習志野市議会で取り上げられたように、本来であれば、近隣住民の安全性に問題がないか、市民や自治体のチェックの眼が必要な箇所もあるはずです。

私はこの火薬類取締法における同一敷地内の複数庫運用にあたっては、本来であれば専門家の見解を取り入れ、安全性を担保できる形で法令を整理して対応していく案件だと考えています。その手続きを経ないうちは、間違っても、防衛省経済産業省のあいだで問題のあるなしを決めるようなことがあってはならないのです。

なぜ、市民が火薬庫の貯蔵量を知りたがるのか?

中傷を目的とする人は、この土地で生活し続けてきた住民さえも、海外テロリストのようにあつかうかもしれません。 私たちが開かれた情報をもとめる理由は、いち市民であっても国や企業へ対等に、その利害関係を調整できる機会が与えられるべきだと考えるからです。

私たちにとっての利害関係とは何か?防衛省にしてみれば、3倍量の火薬量を置きたい。近隣住民にしてみれば、家から300メートルほどしか離れていない場所におく火薬庫について、3倍もの量をおくような解釈はしてほしくないのです。


また、火薬庫で事故があったときのシミュレーションを出すように求めている理由についても、法の仕組みをあまり分からず感想をのべているケースを見聞きすることがあります。

イージスアショア配備の予定であった秋田県で、知事と防衛大臣との会談で、印象的な言葉がありました。 佐竹知事の「何かあった時には『国民保護法』というのでは、乱暴すぎる」という言葉です。

自衛隊はしばしば救難活動もおこなうため、救難活動隊とのイメージも強いと思いますが、本来の任務は国防です。 何かあったときの市民の救助は、場合によって様々ですが、自衛隊が出動することもあれば、海上保安庁が出動することもあります。 この出動にあたっては、県など自治体が出動要請してはじめて行動することができる。 法律のうえでは、市民の救助はまず自治体の役目なのです。

ですからイージスアショアしかり、南西諸島の陸自配備しかり、有事の時にどうやって市民を救助するか?ということについては、県や市など地方自治体がその計画を立てます。 このことを定めたものが『国民保護法』であり、それにそって策定されるのが『国民保護計画』です。

先に秋田県知事の「何かあったときは『国民保護法』というのでは、乱暴すぎる」という言葉は、こういった文脈からでてくるわけです。 イージスアショアがおかれることに関して、もし近隣住民に被害がおよぶことがあったときに、市民は誰がどうやって守るのか? その疑問に対して、国の回答は「それは地方自治体の管轄」というものであったということです。

このことをもとに考えると、火薬庫があることで、たとえば火災があったとき、有事のとき、どのように市民が守られるのか?ということに関して、防衛省は当然「それは自治体の管轄」というスタンスになりますから、地域住民として、では住民避難に必要な情報は提供していただけるのですか?という質問をしているにすぎないです。

しかし、それに対する回答が「シミュレーションはしていない」「能力を推察されるためシミュレーションは出せない」となると、いざというとき市民の安全性を、自治体は事前対処できないということになってしまいます。

もしこれが、無人島に配備する火薬庫なら、私たちも火薬量や事故および有事の際のシミュレーションなどもとめません。家の160メートル先が訓練場であり、300メートル先が火薬庫であるから、安全性の検証をもとめているのです。

また「シミュレーション」という言葉も、適当に言っているものではありません。秋田県山口県に対して、ブースター落下地点などシミュレーションを出しており、その過程で「住宅地に落下する可能性を否定できない」として配備撤回となったのです。

宮古島においては、秋田県などとことなり、防衛省敷地外を軍事展開範囲としています。民間地域に落下する可能性でいえば、否定できないレベルの話ではありません。なぜ秋田県で撤回となり、宮古島石垣島ではそのことが議論にものぼらないのか。 軍事的な話題にはあまり立ち入りたくないですが、南西諸島が限定戦争のエリアとしてとらえられているからではないか、とそのように考えることさえあります。

有事になれば、私たち基地をいだく離島の住民は、基地とともに心中するのが運命のようなものです。 ただし、何かあっても戦争はこの限定地域におさえこみするため、本土のみなさんは大きな影響を受けずにすむのです。


ときおり、この配備をすすめたい人たちは、私たち地域住民がみな出ていってくれればいいのに、と思っているのではないかと考えてしまうときがあります。でも、私たちはずっとここに住んでいて、この火薬庫は一昨年前に工事着手されたものです。 「庇を貸して母屋を取られる」ということわざが、これほど身にしみるものになろうとは、この島に帰郷した数年ほど前には思ってもいませんでした。

先日の訓練場見学が全国規模媒体に掲載されたため、批判めいた意見も多々ながれてくるのを眺めていて、思いたって記事を書きました。 人が住んでいる土地に基地をつくっているのだということ。 そのことに思いをはせる人が一人でも多くいることを心より願っています。

参考資料

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